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長崎地方裁判所大村支部 昭和49年(ワ)30号 判決 1977年3月10日

原告

前川富美子

被告

日新火災海上保険株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金五〇〇万円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  (保険契約の締結)被告は、保険を業とする株式会社であるが、昭和四八年三月六日訴外前川則義との間に普通小型貨物自動車(長崎四ぬ九四三五号、以下本件自動車という)につき保険期間を右同日から翌四九年三月六日午前一二時までとする自動車損害賠償責任保険契約を締結した。

2  (交通事故の発生)訴外前川サエ子は、左記交通事故により死亡した。

(一) 発生日時 昭和四八年九月一二日午前一〇時一〇分ごろ

(二) 発生場所 長崎県大村市中里郷四五二番地先路上(国道三四号線)

(三) 加害車両 本件自動車

(四) 右車両運転者 訴外鳥越正典

(五) 被害者 訴外前川サエ子

(六) 事故の態様 訴外鳥越正典が本件自動車を運転して後退中、後方に佇立していた訴外前川サエ子を轢過して死亡させた。

3  (責任原因)訴外前川則義は、本件自動車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条により本件事故によつて右サエ子および原告が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

4  (損害)別紙内訳のとおり合計金七六六万〇四四二円。

5  (結論)よつて原告は被告に対し自賠法第一六条に基き右損害金合計の内金として、いわゆる強制保険金支払限度額である金五〇〇万円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する答弁

1  請求原因1、2項は認める。

2  同3項のうち、訴外前川則義が本件自動車の保有者であることは認めるが、その余は争う。

3  同4項のうち

(一) 原告主張の逸失利益については、亡サエ子が本件事故当時満四〇歳一一か月で農家主婦として家事労働および農作業に従事していたこと、昭和四七年度全労働者女子平均賃金の年齢階級別月額が原告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

(二) 亡サエ子の慰藉料は争う。

(三) 相続関係が原告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

(四) 原告固有の慰藉料は争う。即ち、本件自動車の保有者は原告の義父たる前川則義であり、また運転者は実父たる鳥越正典であるから、原告固有の慰藉料請求権は存しない。

三  抗弁

亡サエ子は、自賠法第三条の「他人」に該当しない。即ち

1  亡サエ子は、本件自動車の共同保有者である。

(一) 亡サエ子は、夫である訴外前川則義と共同で家業である農業(米作、みかん等)の経営に当り、共に運転免許をもつて右共同目的のために、本件自動車を所有ないし使用しているものである。のみならず、訴外前川則義は、いわゆる婿養子として亡サエ子の両親の前川和一夫妻と同居してその家業を継ぎ、亡サエ子と共に働いて本件自動車を購入したものであり、亡サエ子は則義と共に本件自動車を日常運転してその運行を支配し、かつ、その運行利益も共同で享受しているものであるから、本件自動車の共同運行供用者というべきである。

(二) そして共同運行供用者である場合には、あくまでも運行供用者(保有者)として自賠法第三条の責任主体となるものである。即ち、自賠法第一一条の規定に徴し、運行供用者(保有者)および運転者(以上両者はいわゆる被保険者)以外の第三者が被害者であり、運行供用者(保有者)および運転者が損害賠償責任を負うべきときに保険会社がその損害をてん補するものである。つまり自動車損害賠償責任保険は、その文言どおり責任保険であつて、被害者が運行供用者(保有者)および運転者である場合には、いわゆる「自損行為」として損害をてん補しないこととなつているのである。

従つて、「運行供用者」と「他人」とは対立する法概念であつて、運行供用者であつて、かつ他人である場合を自賠法は予想していないのである。

2  亡サエ子は、本件自動車の運転補助者である。

(一) 自賠法第三条にいう「他人」には運転者は含まれない。しかして同法第二条第四項は「この法律で「運転者」とは他人のために自動車の運転又は運転の補助に従事する者をいう」と規定している。即ち、運転補助者も運転者に含まれるのである。

(二) 本件事故の際、亡サエ子は、訴外鳥越正典が本件自動車を運転して後退するのを補助するため、その後方に佇立して路上の安全を確認していた者である。従つて運転補助者に該当する。

以上、いずれの点よりみるも、亡サエ子は自賠法第三条の「他人」ではなく、本件事故はいわゆる自損行為と目すべきであるから、原告主張の被害者請求権は発生するに由なきものである。

四  抗弁に対する原告の答弁および法律的主張

1  亡サエ子は本件自動車の共同保有者であるという主張について。

(一) 被告の右主張の根拠は、次の点にあるようである。

(1) 亡サエ子と則義は夫婦であること

(2) 農業を共同経営していたこと

(3) 本件自動車は、家業の収益によつて共同購入したものであること

(4) 亡サエ子も運転免許を所持し、共同目的のために日常共同使用していたこと

(5) 従つて、運行利益も共同して享受していたこと

(二) 然し、(1)については、夫婦だから当然に共同保有者となる訳ではなく、要は共同運行支配および運行利益があるかどうかである。

(2)については、日本の家族的農業の特質より、問題の多いところである。亡サエ子が、家族の一員としてその両親の経営するみかん栽培等の作業に労働力を提供してきたことは事実であつて、その収益によつて亡サエ子の生活費がまかなわれていたことも事実である。然し、みかん園の経営は、あくまでも両親である和一夫婦によつてなされてきたのであり、その収益も和一夫婦が取得していた。そして労働力の提供は主として則義においてなされてきており、亡サエ子は単なる補助者にすぎなかつた。

これをも共同経営であるとするならば、夫又は父の経営に関与したものは全て共同経営者となり、共同経営概念の不当な拡大といわねばならない。

(3)については、被告は共同購入であるというが、実際は則義の希望により訴外和一が則義のために買い与えたものであつて、車種の選定、購入手続等は全て則義によつてなされ、代金の支払だけが和一によりなされたものである。従つて則義と亡サエ子の共同購入というのは正しくなく、共同購入というならば則義と和一との共同購入というべきである。

(4)については、亡サエ子が運転免許を所持していたことは認めるが、サエ子は運転技術が未熟であることから車を使用する場合は、専らもう一台の軽自動車を使用しており本件自動車を運転するのはごく限られた場合だけであつた。本件自動車の主な用途は、みかんの出荷、農機具等の運搬であるが、これは殆ど則義によつてなされていた。またみかん園の経営等は和一夫婦によつてなされているのであつて、共同目的のために使用していたとはいえない。

(5)については、前述したような本件自動車の用途からいつて、和一夫婦を共同受益者ということはできても、亡サエ子を共同受益者ということはできない。もし、亡サエ子も共同受益者であるとするならば、殆どすべての家族が共同受益者に該当することになり、それは共同受益者の概念の不当な拡大といわねばならない。

(三) 被告は、自賠責保険を責任保険と主張するが、責任保険であるか或は社会保険であるかは争いのあるところであつて、(1)罰則でもつて契約の締結が強制されていること、(2)自賠法の立法趣旨(同法第一条)、(3)政府が六〇パーセントを再保険していることなどからいつて社会保障制度としての色彩が濃いことは疑いなく、その意味では両者の側面を併せもつものと考えるのが適切である。現実の運用においても、自賠責保険金は、当然過失相殺されて減額されて然るべき場合でも全額支払われる場合が多いし、また加害者が十分誠意を示し被害者の宥恕の意思がうかがわれる場合にも支払われている。その意味では、自賠責保険は損害のてん補に重点があり、てん補すべき損害であるかどうかという損害自体の評価を抜きにしては考えられない特質をもつものである。

本件においては、原告は後述するように、本件事故のため家庭は破壊され、養父の則義とは離縁することになつているから、保険金が則義の財産と混同されるおそれはなく亡サエ子の相続人である原告の為にのみ使用される点に留意すべきである。

このように自賠責保険が社会保障制度の側面を持つと考えれば、共同保有者という概念の安易な拡張は避けるべきである。けだし、家族経営の多い日本の中小企業や農業の特質を考えると、共同保有者概念の安易な拡張は、自賠責保険の立法趣旨である社会保障的側面をふみにじる結果となるからである。

2  亡サエ子が本件自動車の運転補助者であつたという主張について。

(一) 具体的事案において、被害者が運転補助者であるか否かの判断は、被害者救済という自賠法の精神を考えると、実質的に運転者と同一視できる立場にあつたか否かを判断基準としなければならない。けだし自賠法第三条但書は、運行供用者が免責される要件を定めているものであり、運行供用者が免責されるためには、直接の運転者のほか運転補助者の過失についても考慮しなければならないことを規定しているのであつて、運転補助者が被害者である場合に、これを直接の運転者と同様に当然に同条本文の「他人」から除外する趣旨とは解されないからである。

(二) そして運転補助者が運転者と実質的に同一視できる立場にあつたといえるためには、第一にバスの車掌やトラツクの助手等一般的に運転補助者の地位にあること、第二に事故当時の具体的な行為において、少くとも運転行為の一部を分担する等運転行為と密接な関連を有する行為があつたことを要するものと解すべきである。

亡サエ子が右第一の要件を具備しないことは明らかであるし、第二の要件についても同女は何ら具体的な誘導行為をしていなかつた。

五  運転補助者の点に関する被告の補足主張

原告は、自賠法第三条にいう「他人」でないというためには当該被害者が一般的に運転補助者の地位にあることを要すると主張するが、同条にいう「他人」に該当しないとされる運転者または運転補助者とは、現に運転またはその補助に従事していれば足りるものと解すべきであり、その者が職務上の業務として運転またはその補助に従事していることを要するものではない。その理由は次の二点である。

第一は、運転者の場合、職務上の業務として運転者たる地位にない者であつても、現に運転している場合には自賠法第三条の「他人」に該当しないとされるのである。運転補助者の場合も運転者と別異に取扱うべき特段の理由はないのである。

第二は、現に運転の補助に従事している者が当該自動車で死傷する場合は、いわゆる「自損行為」といわれる。当該自動車の運転者と同様に、その自動車の運行全般にわたり細心の注意を払い、接触ないし轢過されないよう自ら安全を確保すべき義務があるからである。そのため現に運転の補助に従事する者は自賠法第二条第四項の運転者に含まれ、同法第三条の「他人」に該当しないものと解されているのである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因事実のうち、訴外前川則義(以下則義という)が昭和四八年三月六日本件自動車につき被告との間に原告主張の自賠責保険契約を締結したこと、右保険期間中の同年九月一二日本件自動車の運行によつて原告主張の交通事故が発生し、訴外前川サエ子(以下亡サエ子という)が死亡したこと、則義が本件自動車を所有し自己のため運行の用に供していたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで抗弁につき判断する。

1  自賠法第三条本文にいわゆる「他人」とは、自己のために自動車を運行の用に供する者および当該自動車の運転者(運転補助者を含む、同法第二条第四項)を除くそれ以外の者と解されるところ(最判昭三七・一二・一四民集一六―一二―二四〇七、昭四七・五・三〇民集二六―四―八九八等)、被告は、亡サエ子は本件自動車の(共同)運行供用者であり、かつ、運転補助者に該当する、と主張する。

2  そこで先ず運転補助者の点から検討するに、成立に争いのない乙第四号証の一ないし七、第五号証・第八ないし第一〇号証に証人鳥越正典の証言を併せ考えれば、右鳥越は、本件事故当日の朝則義から借りた本件貨物自動車に材木を満載し、助手席に亡サエ子とその実父前川和一を同乗させ、鳥越が運転して事故現場近くの製材所に赴いたが、同製材所前国道の反対側に停車したため、同製材所に本件自動車を入れるには交通量の多い国道をバツクで斜め横断しなければならなくなり、和一・サエ子の両名に後方の安全確認を頼んだところ両名共これを承諾し、和一は国道の向う側(製材所側)の端に立ち、又サエ子は国道のこちら側(本件自動車側、つまり平山プラント側)で本件自動車の左後方(国道内)に立ち、それぞれ国道上を往来する他の自動車の動静を注視していたところ、鳥越がクラクシヨンもならさず本件自動車をバツクさせたため、荷台後部から長くつき出た木材の先端が亡サエ子の身体に当り、路上に転倒したところを本件自動車の左後輪で轢過され間もなく死亡したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして右認定事実によれば、本件事故当時、亡サエ子が鳥越の後退運転を補助していたことは明らかといわねばならない(尤も前掲証拠によれば、亡サエ子が後退を誘導するための言葉を発したり具体的な動作をしたりしたことはなかつたことが認められるが、このことは何ら右認定を左右するものではない。けだしそれは単に後退を制止する程に他車が接近していなかつたことを示すにとどまるからである。)。

3  この点に関し、原告は、運転補助者というためにはバスの車掌やトラツク助手等のように業務として運転補助に従事していることを要する旨主張するが、そのように解すべき明確な根拠を見出すことはできず、自賠法第三条にいう運転者(それが業務ないし職務として運転したことを要しないのは明らかであろう)との対比からいつても、事故当時現に運転補助に従事していたことをもつて足りると解するのが相当である。

4  以上述べたように、亡サエ子は運転補助者に該当するから自賠法第三条にいわゆる「他人」には当らず、本件自動車の保有者である則義は右法条に基く損害賠償責任を負うものではない。

5  従つて則義に損害賠償責任のあることを前提とする原告の本訴請求は、既にこの点において失当であるから、その余の点につき判断する必要はない訳であるが、本訴においては右運転補助者の点とならんで亡サエ子が本件自動車の共同運行供用者であるかどうかが当事者間で争われているので、念のためこの点に関する当裁判所の結論を簡単に述べておくと、当裁判所は亡サエ子は本件自動車の共同運行供用者であると判断した。

即ち、成立に争いのない乙第六号証に証人鳥越正典、同前川トシ、同当麻(旧姓前川)則義の各証言を併せ考えれば、亡サエ子は前川和一、同トシ夫婦の長女であるが、同夫婦には男の子がなかつたところから、昭和三五年六月、則義がサエ子のいわゆる婿養子として迎えられ(婚姻届同年一一月)、それ以来則義を中心的な働き手として、サエ子・和一がそれを助け、トシは家事の傍ら手伝うという形で一家四人が約二町歩に及ぶみかん栽培を主とする農業に従事していたこと、本件自動車は、昭和四三年ごろ、みかんや農機具・肥料の運搬、農作業等に使用するため則義の名で購入されたものであるが、同人は婿養子であるため時折僅かばかりの小遣銭を貰う程度であつて、一家の経済的実権は和一・トシが握つており、右自動車代金約七三万円(割賦払)や月々のガソリン代、修理費、税金等の維持費はすべて農協の和一名義の預金口座から支払われていたこと、亡サエ子は昭和四三、四年ごろ運転免許を取得し、則義程ではないにしても日常本件自動車を運転使用し、農作業以外にも買物等個人的用事にも使用しており、現に本件事故当日も妹婿である鳥越から本件自動車の借用方を頼まれたところから、和一を同乗させ自ら運転して鳥越方へ赴いていること、本件自動車はトラツクであつて体裁が悪いということから、亡サエ子の希望で昭和四七年ごろ別に軽四輪乗用自動車を買入れたが、住居付近は坂道が多く軽自動車では馬力が弱いせいかギアが入りにくいということがあつて、その後は亡サエ子は右軽自動車と本件自動車とを半々位に運転使用していたこと、おおよそ以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そして右認定事実を綜合して判断すれば、亡サエ子もまた本件自動車の所有権を有し(共有)、その運行を支配し、運行利益を得ていたものと認めざるを得ないのである。

三  よつて原告の被告に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(損害内訳)

(一)  亡サエ子の逸失利益 金七九九万〇六六三円

亡サエ子は、本件事故当時満四〇歳の健康な農家の主婦であつたので、本件事故にあわなければ今後満六五歳までの二五年間、農家の主婦として家事労働および補助的農作業に従事することができた筈である。

右家事労働および補助的農作業を金銭的に評価すれば、その収益は少くとも全労働者女子の平均賃金と同額の収益であると思料される。

ところで労働大臣官房統計情報部編「労働統計年報昭和四七年」第五九表によれば、全労働者女子の年齢階級別一人平均月間きまつて支給される現金給与額は

40歳―49歳 49,800円(年間597,600円)

50歳―59歳 49,400円(年間592,800円)

60歳― 44,400円(年間532,800円)

であり、同平均年間特別に支払われた現金給与額(賞与等)は

40歳―49歳 137,600円

50歳―59歳 127,300円

60歳― 107,400円

であるから、年間の給与総額は

40歳―49歳 735,200円

50歳―59歳 720,100円

60歳― 640,200円

であり、亡サエ子も就労可能期間、右と同程度の収入を得られた筈である。

右収入より控除さるべき生活費は、亡サエ子は食費については、調味料等を除いては専ら自家生産の食物を利用しており、衣料費その他の雑費についても最低限度で用を足していたので極めて少額であり、生活費全体で収入の三割とみれば十分である。

よつて亡サエ子が満六五歳に達するまでの二五年間、毎年末に前記年金的収益があるものとして、複式ホフマン式計算法により年五分の割合で中間利息を控除すると、左記計算式により逸失利益の現価は金七九九万〇六六三円となる。

735,200円×0.7×7,945=4,088,814円

720,100円×0.7×(13.616-7.945)=2,858,580円

640,200円×0.7×(15.944-13.616)=1,043,269円

合計 =7,990,663円

(二)  亡サエ子の慰藉料 金二〇〇万円

亡サエ子は、一家の主婦として家事および原告の養育に精励し、年齢的にも働き盛りであつた。原告・夫・両親らと円満な家庭生活を送つていたが、本件事故のため人生半ばにして不慮の死を遂げた。同女の受けた精神的苦痛に対する慰藉料は、諸般の事情を考慮すれば金二〇〇万円が相当である。

(三)  原告の相続

亡サエ子は子に恵まれず、夫則義と共に昭和四一年三月一二日、原告を養子として貰い受けた。亡サエ子の相続人は夫則義と養子の原告のみである。

よつて原告は、亡サエ子の蒙つた右(一)、(二)の損害合計九九九万〇六六三円のうち、その三分の二に当たる金六六六万〇四四二円を相続により取得した。

(四)  原告の固有の慰藉料 金一〇〇万円

本件事故のため、原告は約八年間にわたつて養育を受けたサエ子を奪われ、心の痛手は言語に尽し難いものがある。殊に原告は未だ中学生という多感な年代であり、その精神上の苦痛はひとしお甚大である。

よつて原告の固有の慰藉料として金一〇〇万円を要する。

よつて原告の損害額合計は、金七六六万〇四四二円となる。

以上

(裁判官 大東一雄)

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